「どんなジョブを片づけたくて、顧客はそのプロダクトを雇用するのか?」
クレイトン・M・クリステンセン 「ジョブ理論」より
このひとことの説明
クレイトン・M・クリステンセン(以下、クリステンセン)は、著書「ジョブ理論」で、イノベーションの成功に大切なものは、正しい問いを投げかけることであると述べています。
企業はある商品を売るために、購買した人の年齢、性別、職業などの情報を分析し、特定のパターンを見出そうとします。しかし、そこで見出したパターンと購買にあるのは相関関係であり因果関係ではないと著者は言います。
ある商品を売れるように改善する、あるいは売れる商品を新たに作り出すためには、顧客が購買に至った原因を特定し因果関係を紐解く必要があります。
その問いが「どんなジョブを片づけたくて、顧客はそのプロダクトを雇用するのか?」です。
ここでいう「ジョブ」とは、必ずしも職業に関する仕事である必要はなく、より幅広い「やるべきこと」、「実現したいこと」全般です。例えば、「行列に並ぶ待ち時間を潰したい」、「周囲から博識だと思われたい」、「娘にヘルシーなお弁当を用意したい」なども、「ジョブ」にあたり、日常的に多く発生するものであることが分かります。
顧客がある商品を購入するのは、このジョブを片づけるためであるため、企業はこのジョブをより上手に片づけられるように商品を開発あるいは改善する必要があるということです。
ミルクシェークのジレンマ
この問いに答えることで成功した事例として紹介されているのが、ファーストフード店におけるミルクシェイクの事例です。
ある調査チームが「どうすればミルクシェイクをもっと売れるか」の答えを求めて調査をしていました。
来店するお客さんを呼び止めて、どうすればよりミルクシェイクを買うのか?味か?量か?価格か?といったアンケートを取り、結果として多く得られたフィードバックをもとに改善を実施しました。
結果はどうなったかというと、売上に変化は起きませんでした。
そこで、調査チームは別のアプローチをとることにしました。
「来店客はどんなジョブを片付けるために、店に足を運びミルクシェイクを雇用したのか」を明らかにするという切り口です。
調査チームは観察とインタビューの結果、早朝に車で通勤をする人たちが長く退屈な運転に気を紛らわし、空腹を満たすというジョブのためにミルクシェイクを雇用していることが分かりました。
このジョブの発見に基づき、より上手に退屈を紛らわすためにフルーツやチョコチップを足す、忙しい通勤者のために自分でシェイクを注ぎすぐに立ち去れるような店舗の工夫を取り入れる改善を行い売り上げの向上に至りました。
このひとことからの学び
「どんなジョブを片づけたくて、顧客はそのプロダクトを雇用するのか?」というひとことは私に大きな気づきを与えてくれました。
それは、私は、顧客がなぜ自社の商品を購入したかの因果関係を理解していないということです。
これまで私が考えていたように、顧客がなぜ自社の商品を購入したのか(しなかったのか)の原因を商品の品質やコストや特徴に求めるというのも、ある面で間違いではないのかもしれません。
ただ、その商品が良いものであるかどうかは、顧客の片づけるべきジョブを上手に片づけられるかという点で判断されるべきであるというのは、まさしくその通りだと思います。
私は自社商品をより良いものにする活動のために、改めて以下の問いを自分に投げかけていきたいと思います。
・顧客が欲しいと言っているものを鵜呑みにしていないか
ミルクシェークのアンケートで顧客が望んだものを実現しても売上は増えなかった。顧客が欲しいと言ってるものが、真に顧客が求めるものではないという場合が多く存在する。
・私は顧客の片づけるべきジョブを理解しているのか
顧客を観察し、顧客に適切な質問をするなどして、顧客の業務だけではなく、顧客が置かれている「立場」や「悩み」や「責任」を理解しようとしているか。
・自社商品は顧客のジョブを上手に片づけているのか
顧客のジョブを理解できたとして、自社商品は顧客のジョブを上手に片づけているのか、より上手に片づけるためにどのような改善ができるのか。
それなりの品質のものを安く大量に生産できれば売れていた時代が終わり、個々の好みや事情にフィットした商品が求められるようになって久しい昨今、改めてジョブ理論が提示した問いが価値を持つようになているのではないでしょうか。
「どんなジョブを片づけたくて、顧客はそのプロダクトを雇用するのか?」
このひとことが皆様のビジネスにも役立でば、嬉しく思います。
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